生活保護制度と賃貸実務

空室に悩む賃貸の現場

 私の地方でも、この時期になると3月、4月の春の異動をあてこんだ、アットホームや、SUUMO等の独立系から、アパマンショップやエイブルなどのFC系、いい部屋ネットやホームメイト等のサブリース系?のスポットCMがガンガン流れております。

 この業界に足を踏み入れて毎年思うのですが、年々「春の異動」で動かれる人の人数が減ってきているように思います。そもそも若い世代の人数が少子化で減ってますし、地方は大企業も少なく、地元の若手が就職したいという会社が乏しい。一方で高齢化が進み、賃貸物件から施設に移動される方も結構いらっしゃるいう現状・・・。これは、オワコンかッ・・・・orz

 総務省統計局が公表している「平成30年住宅・土地統計調査」によると総住宅数における空家の割合は「13.6%」となっており、過去最高を更新しております。ちなみに私の地方では、私の肌感覚として賃貸物件の空室率は20%はあるような気がしております。(協会の支部の発表では、20%未満の空室率)

 空室が多くなると、当然オーナー様からの風当たりが強くなり、管理会社として何とか空室を埋めるべく努力をするのですが、正直特効薬は無いような気がします。募集条件の見直しは、これまでもしてきているし、リフォーム、リノベーションはオーナー様の懐具合と実施した際に本当に入居が決まるのか?といった問題もあり、思い切って提案しにくいところがあったりします。

 そんな中でこれまで賃貸の入居審査で受け入れてこなかった属性の方々を積極的に受け入れようと推奨するお話をよく、見聞きするのですが・・・。今回は「生活保護世帯」の案件で実際に体験したことを皆様にお知らせしたいと思います。

生活保護制度とはどんな制度

 厚生労働省によると、生活保護制度とは、資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度ということらしい。(支給される保護費は、地域や世帯の状況によって異なります。)

 2020年2月5日に同省が発表したデータによると、生活保護を受給している世帯数は163万6952世帯で、受給者数は207万1747人ということで結構なボリュームになることがわかる。ちなみに生活保護世帯の方々には、世帯数や地域を考慮した生活保護費が月初に地方自治体を通じて支払われている。

 賃貸の現場では、生活保護費として支給される「住宅扶助費」がポイントになり、地域、世帯数を基にその地域で借りられる賃貸物件の「賃料の上限」、「契約金の金額の上限」等が制約されている。例えば、単身世帯の場合は、月額4万円まで、二人世帯の場合は月額4.5万円までという制約がある。

 生活保護費の支給は「毎月月初」になるため、賃料の前払いは難しいが、「生活保護世帯である限り」、行政が確実に生活保護世帯に「住宅扶助費」を支給するため、理論的には、賃料の滞納がおきない素晴らしい属性の方といえるのかもしれないが、ことはそう、単純ではないのである・・・。

生活保護世帯の管理で体験した事例
 

 賃貸の管理の現場では、生活保護世帯に限らず、様々な事例が発生しているのですが、生活保護世帯で注意を要すると感じた事例を取り上げていきたいと思います。

(1)賃料の滞納
 先程、生活保護世帯には行政より、生活保護費が支給される。その中には家賃の支払い原資である「住宅扶助費」も含まれていると記述したのですが、賃料を滞納する生活保護の方は結構いらっしゃいます。事情は人それぞれかと思いますが、支給された住宅扶助費の目的外使用は、違反ですし、いったん、賃料を滞納をすると立て直しができない傾向があります。

 もちろん、賃料を滞納すれば、生活保護世帯とはいえ、最悪、賃貸借契約解除となり、最後のセーフティーネットである生活保護制度が機能しなくなってしまいます。最近は、事態を重くみた地方自治体が、代理納付(自治体から直接賃料をオーナーに振込)に応じてくれるようになってきました。

(2)共同住宅でのトラブル
 生活保護世帯の方々の中には、精神的な病を患っている方も少なくありません。この「精神的な病」は我々不動産会社では、その程度を把握することがなかなか難しいという問題をはらんでいます。以前、管理を受託した共同住宅で、精神的な病を患っている方がお住まいで、他の入居者とトラブルになった事例がありました。

 この方は体調が悪いと大声で騒ぎ出すことがあり、重度の場合は一時的に施設に入所するという状態でした。本人は、当然悪気はないのですが、共同住宅の他の入居者は相当な恐怖を感じたらしく、女性を中心に退去が相次ぎました・・・。行政の方や、ソーシャルワーカーの方とも相談をしたのですが、この状態では、よその管理会社も引き受けてくれない状況で、どうしようもなかったです。結局、共同住宅のオーナーチェンジに伴い、管理から外れたのですが、なかなか難しい問題だと感じました。

(3)入院したので、賃料が払えないッ!
 これまできちんと賃料を払ってくれていた生活保護世帯の方が突然、賃料を払わなくなってしまった。あわてて、携帯電話に連絡を入れても電話にでないし、訪問しても人の気配を感じない・・・。これは、もしかするとヤバイ案件かも・・・。一応、生活保護課に照会すると、現在入院していますとのこと。病院を訪問し、本院に面会すると「入院したことに住宅扶助費がカットされたので、賃料が払えないので、電話に出なかった」とのこと。

 生活保護課に確認すると入院期間によっては、住宅扶助費や光熱費がカットされる場合があります。入院中は必要ないので・・・的な回答。本人は、ソーシャルワーカーの方から施設への入居を進められているものの、退院したら、元の賃貸住宅に戻りたいとのこと。とりあえず、退院したら、毎月の生活保護費を節約して、滞納賃料を払いますということに落ち着いた事例。

(4)子供がアルバイト収入を使ってしまったので、賃料が払えませんッ!
 生活保護費の欠陥だと個人的に思っているのですが、生活保護費は、世帯に対して支給されます。生活保護世帯の方に収入があった場合は、その分生活保護費がカットされます。ただ、実際には少しでも働いて収入があったほうが、全体の収入が増えるよう、調整がされております。(これまでの生活保護費<働いて得た収入+見直された生活保護費)

 私が体験した事例では、未成年のお子様がアルバイトで得た収入が世帯収入に加算され、その分生活保護費がカットされた。アルバイト代はお子様が雇用主からもらい、自分のお金として使ってしまい、世帯主のもとには、アルバイト代相当額が生活保護費からカットされての支給となってしまったため、賃料が払えなくなってしまったとのこと。結局、生活保護の担当者に生活保護世帯を訪問してもらい、お子様にも事情を説明してもらいました。何ともやりきれない気持ちになりましたorz

(5)生活保護の対象から外れたので賃料が払えませんッ!
 我々管理会社が気づいた時には、生活保護から抜け出し、普通に暮らしていたのですが、会社を辞めて、再就職先がなかなか決まらず、賃料が払えなくなってしまったとのこと。現在、再度生活保護手続きを申請中とのこと。

(6)亡くなられた以降の賃料は支払いませんッ!
 生活保護単身者の方がお部屋で孤独死(病死)された事案。幸い、訪問介護を受けていた方だったため、発見が早く、親族の方にもご協力いただき、残置物の処理、賃貸借契約の解約て続きと順調に進んでいたのですが・・・。清算手続きで、行政の担当者より、死亡日以降の賃料を返還するようにとの指示がありました。生活保護制度の住宅扶助費は、本人が生きている時しか負担しないことになっているそうです。ブチ切れそうになりましたが、連帯保証人(親族)の人にお亡くなりになられた日から物件明渡日までの賃料を負担していただきました。

以上のような実体験をした管理人としては、「生活保護世帯大歓迎」とは言えないですね・・・。最近は地方自治体が保証会社の費用を認めてくれるようになったので、「連帯保証人」の問題をクリアーすれば、とりあえずお金の問題は何とかなるのかもしれませんけどねッ。

最後に生活保護世帯の生活保護費は環境と共に支給される金額が変わります。そもそも生活保護費の支払い対象でなくなる可能性もあるので、オーナー様に間違っても「生活保護の方だから、大丈夫ですッ!」とは、言ってはいけませんね。後で問題が発生したら「貴方が大丈夫って~~~・・・。」orz





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